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5月28日フレンチオープン開幕。赤土の上で激しいラリーが続くフレンチオープンには、原初のテニス精神が濃密に宿っています。というのは、テニスはバスク民族のあいだで行なわれていた「ペロタ」(pelota=ボール、ボールゲーム)という球戯から発展していったのですが、このペロタが、腕も折れよとばかりにボールを打ち合う激しいスポーツだからなのです。
ペロタは打球具を使うこともありますが、素手で行なうのが基本。壁にボールを打ちつけ、跳ね返ってくるボールを交互に打ち合います。ボールは芯に糸を巻いたもので、鍛えられた手でも痛くて腫れ上がるのだとか。 バスク民族はヨーロッパに現存する最古の民族。スペインの辺境で独自の文化を守っています。ほかに彼らが行なうスポーツは、石かつぎ、石引き、丸太切り、草刈り、ボート漕ぎ、綱引きなど、労働から派生した激しいものばかり。ペロタの勝者は強い手を持つ働き手とみなされ、痛みに長時間耐え抜いたチャンピオンは英雄として尊敬されます。 「あれっ、テニスってフランスの修道院で始まったのでは?」と疑問に思う人がいるかもしれません。ごもっとも。12世紀にフランスの修道院で始まった「ジュ・ド・ポーム」(Jeu de paume=手のひらのゲーム)がテニスの起源、というのがテニス史の定説ですから。ジュ・ド・ポームは、熱病にうなされた修道士の幻視から生まれたということになっています。修道士の魂が地獄の谷に迷い込んでいき、それを悪魔たちがボールのように手で打ち合って遊んだというのです。 古代エジプトでも球を打ち合う遊びはあったそうで、どこまで起源を遡るかは考え方次第かもしれません。しかし、修道院には12世紀以前からペロタが持ち込まれていたので、ジュ・ド・ポームを起源とするなら、ペロタを起源とするほうが正しそうです。異教の球戯を楽しむために、教会はまずペロタをキリスト教化して安全な遊びとし、そのためテニス史も無意識のうちにペロタを見落としているというのが真相のようです。 以上、テニスの起源にまつわる話は、すべて稲垣正浩著『テニスとドレス』(叢文社)からの受け売りでした。 ちなみに、日本にキリスト教を伝えたフランシスコ・ザビエルはバスク出身でペロタの名手。ペロタのせいで著しく変形したザビエルの右手がミイラ状態(!)で保存されているのだそうです。もうひとつちなみに、昨年フレンチオープンで優勝したスペインのラファエル・ナダルは西地中海マジョルカ島の出身。バスクでなくてちょっと残念。 #
by tennis_passtime
| 2006-05-21 04:29
| ●雑学・技術・科学
入学間もない中学1年生の教室。2時間目の数学の授業が終わったあと、教師が言った。
「テニスをやりたい人は、今日の放課後、校庭に集まりなさい」 教室のあちこちから声があがった。 「テニスってなに?」 「ラケット貸してくれるん?」 「水たまりあるで」 なにしろ田舎中学のこと、テニスなど知らない生徒が大半だったが、放課後には、好奇心にかられた40人ほどの1年生が集まった。1年生の3人に1人が集まったことになる。教師は各クラスで呼びかけたらしい。 朝、雨が降っていたこともあり、生徒の多くは長靴を履いていた。男子は詰襟、女子はセーラー服。水たまりはひいていたが、グラウンドは柔らかかった。そのせいなのか、いつもなら狭いグラウンドを我が物顔で占拠している野球部の姿はなかった。 校舎の玄関から、竹で編んだ大きなカゴを抱えて教師が出てきた。そんなものがどこにあったのか、20本近いラケットと数ダースのボールが入っていた。もちろん軟式テニス用である。 カゴがグラウンドに置かれると、生徒たちはわっと群がり、われ先にラケットとボールをつかむと、てんでに打ち合いを始めた。距離も方向も定まらないボールは入り乱れ、放課後のグラウンドに歓声があがった。 そのうち、誰かが「先生もやってえな」と言った。 教師は「よっしゃ、よう見ときよ」と応じ、そばにいた生徒のラケットとボールを手に取ると、ひとりの男子生徒を指さしてからボールを送り出した。 はじめは散らばっていた生徒からの返球もまとまりだし、ポーン、ポーンと打ち合いが続いた。 「先生、うまいやん」 「あたりまえや」 模範演技のあと、生徒たちはふたたび自由に打ち合った。 物珍しさからくる興奮もそろそろ薄れてきたころ、教師は終了を告げ、生徒たちにラケットとボールを片づけさせた。そして、授業のあとに呼びかけたときより少し大きな声で言った。 「テニス部をつくります。明日から始めるので、入りたい人は、体操服を着て、グラウンドに集まるように」 ▼テニス少年2に続く #
by tennis_passtime
| 2006-05-21 03:37
| ●連載ミニ小説
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