カテゴリ
記事ランキング
最近読んだ本
おすすめリンク
以前の記事
検索
その他のジャンル
|
▼放課後のテニス[テニス少年1]はこちら
▼奇妙な初練習[テニス少年2]はこちら 健太が通う中学校は、城で有名な関西の地方都市にあった。JRの駅の北にそびえる優雅な城は市民の自慢だったが、城のほかにはこれといって見るべきものはなく、落ち着きも活気もいまひとつの街であった。学校は市の中心部から遠く、本数も少ないバスで1時間近くかかるところにあった。校舎はお椀を伏せたような低い山を背にし、前には田んぼが広がっていた。全校生およそ300人は、田舎道を30分から40分かけて徒歩で通学していた。 田舎にあるわりに校庭は狭かった。野球部がただひとつの屋外系運動部だったが、その野球部も外野の奥行きが十分に取れないのが悩みだった。 そんなグラウンド事情だから、テニスコートなどという贅沢はゆるされるはずもなかったのだが、さいわい、校庭に隣接してプールの建設用地があった。それは水田に土を盛って整地をしただけの、プール着工までの期限付きの空き地だった。小学生のころ健太が中学校の運動会を見物したとき、そこは入場前の整列スペースに使われていた。 プールができたあとも、テニスコート1面ぐらいは取れる広さが残ることがわかり、大学時代にテニスをやっていた数学教師が、軟式テニス部をつくろうと思い立ったのだった。 若い教師の呼びかけに応じ、テニスの「テ」の字も知らない新入生およそ20人が、コートのないテニス部に入部して、コートづくりから部活動を始めることになった。 教師が1年生のクラスだけで声をかけたからなのか、集まった新入部員は1年生ばかりだった。帰宅部暮らしの2年生以上にとっては、今さらクラブ活動でもなかったのかもしれない。 健太たち新入部員は、毎日、コート予定地の雑草を抜き、石ころを取り除いた。石ころを取り除いたあとの穴ぼこは、空き地の隅を掘り起こしてふるいにかけた土で埋めた。 ボールも打てないテニス部だったが、部員たちにとくに不満はなかった。ツルハシをどれだけ深く地面に突き立てられるか、スコップで土をどこまで飛ばせるか、一輪車をどれだけ器用に操れるか……すべてを遊びに変えながら汗を流した。職員会議さえなければ、先生もいつもいっしょだった。 そんな作業が1か月以上も続いただろうか。雑草と石ころだらけだった凸凹の地面は、中学生のニキビ面程度になり、そのニキビも次第に目立たなくなっていった。 5月も終わりに近づいたある日、先生は部員に指示を与え、体育用具置場から角材を2本、ネットを1張り運び出させた。 先生は部員に大きな巻尺を持たせ、あちらこちら長さを測りながら地面に印をつけていき、2箇所に穴を掘るように命じた。 「えーっ! 先生、もったいないやん。せっかくきれいにしたのに……」 コートづくりが仕上げに近づいたことがうれしくて、ひょうきん者がいつものボケをかましたが、その日はツッコむ者がいなかった。みんな初めて見るポールとネットに気をとられていたのだ。 口を広く開けずに深い穴を掘るのは難しかったが、なんとか必要な深さの穴を穿つことができた。そこに手製のポール--技術家庭の教師がありあわせの道具で作ってくれたポールだった--を立てると、根元を大小さまざまな形の石で固め、土で隙間を埋め、足で踏み固めた。 ネットを張る度にポールはグラリと倒れこんだが、何度かの試行錯誤の末に、ようやく我慢できる程度の傾きで止まり、一同を安堵させた。 次に先生が出した指示で、ついにラインを引くのだとわかり、部員一同の興奮はさらに最高潮に達した。 先生は部員を動かしてさまざまな半径で弧を描かせると、交点に目印の五寸釘を打ち込んでいった。数学の図形の授業でノートの上でやっていることを、うんと拡大して地面の上でやっているような感じだった。 どうやら必要なポイントがすべて確定したらしい。釘と釘の間に細いひもをピンと張り、その内側をほうきで掃いた。一方で、石灰を水で溶き、先に刷毛の付いたジョウロに入れておき、その刷毛をひもに沿わせてラインを引いていった。 大きく見れば波打ったような、細かく見れば随所にニキビ痕の残るコート表面。太くなったり細くなったりしながら微妙に蛇行する白線。内側に傾いだポール。どれをとっても素人の手づくりには違いなかったが、健太たちにとって、自分たちの手でつくったそのテニスコートは光り輝いていた。 練習初日には20人ほど集まった新入部員だったが、コートが完成したときには7人、女子は全滅して男ばかりになっていた。 ▼テニス少年4に続く
by tennis_passtime
| 2006-10-29 22:39
| ●連載ミニ小説
|
ファン申請 |
||