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今回のテーマは「スイートスポット」(Sweetspots)です。ラケットには3つの「重さ」があると「ラケット研究1」で説明しましたが、「スイートスポット」も3つあります。「自然界は"3"を好む」と誰か有名な人が言っていませんでしたか? 言っていなければ私が言ってもいいです。少なくともラケットは「3」を好むようです。
スイートスポットとはどういう点のことでしょう? フレームショットの痺れるような衝撃が「甘美だ」という人はいないでしょうが、あらためて問われると、答えに詰まるのではないでしょうか。 スイートスポットとは次のような点のことです。 (1)腕が受ける衝撃が最小 (2)ラケットの振動が最小 (3)ボールを飛ばす力が最大 そして、これら3つの点はラケットフェース(ストリング面)上に別々に位置しています。だから「スイートスポットは3つある」というわけです。 私は、「飛ばす力が大きい」というのがスイートスポットの定義で、そこでは衝撃も振動も小さいのだと思っていました。つまり、1点が3つの性質を持っているのだと誤解していたわけです。 「スイートスポットが20%拡大」などと書いている広告を見かけますが、3つのスイートスポットはどれも面積のない「点」ですから、正確性を欠く宣伝文句です。そもそも、どの意味でスイートなのか明らかでありません。3つ全部を囲んで、ついでにその周辺まで範囲を広げて、このへんまでスイートなことにしておこう、と言っているとしか思えません(「スイートエリア」と書いているメーカーは、まだしも良心的です)。 それでは、3つのスイートスポットについて説明していきましょう。 衝撃最小のスイートスポット(Center of Percussion) まずは衝撃最小のスイートスポットから。 「衝撃がない」とはどういうことでしょう? インパクトの瞬間、ラケットは全体として後ろに押されます。と同時に、バランスポイントを回転軸とする慣性モーメントが働いて、ヘッドは後退し、グリップは前に突き出ます(ラケット研究2「リコイルウエイト」参照)。このとき、ラケット全体が押されて後退する大きさと、グリップが前に突き出る大きさが相殺しあってゼロになれば、手に感じる衝撃はなくなります。 そのような打点をCOP(Center of Percussion)といいます。COPでボールをヒットすれば衝撃がなく心地良いので、「衝撃最小のスイートスポット」というわけです。 勘の良い人はもうおわかりでしょうが、COPの位置は、グリップのどこを握るかで変化します(言い換えれば、握った位置それぞれに1対1対応するCOPが存在します)。ラケットを短く持てばCOPはヘッド寄りに移動します。 COPの位置は、ラケットのスイングスピードやショットの種類(トップスピン、スライス、サーブ、ボレーなど)によって変わることはありません。ラケットそのものが持つ属性と、握る位置によってのみ変化します。 COPの位置を知る方法は以下の通りです。 ふだんのラケットの握り方で人差し指が来る位置を支点としてラケットを振り子のように揺らし、1往復に要する時間を測ります。それをt秒とすると、COP(振り子の支点からの距離)=248×t×t(単位はミリ)ということになります。 振動最小のスイートスポット(Vibration Node) 次は振動最小のスイートスポットです。 ボールを打つとき、どんなに硬くてもラケットはしなり、振動します。振幅はラケットトップ(一番先端)とグリップエンド、そしてラケット中央部で最大になります。このとき、ラケットには振幅ゼロのポイントが2カ所ありますが、そのような点をバイブレーション・ノード(Vibration Node)といいます。振動がなく心地良いので、これもスイートスポットというわけです。 ノードは2カ所あるといっても、1つはグリップトップ(グリップの一番上の部分)付近なので、実際にボールを打つスイートスポットといえるノードは1箇所ということになります。 そのノードですが、正確には「点」ではなく、フレームの2時と10時を結ぶ「曲線」の上に存在します。オフセンターヒットであっても、その曲線上であればラケットは振動しないのです。ただし、そんなところで打ったのでは、前回書いたように、ツイストウエイトが働いてラケットが手の中で回転するので、決してスイートではありません。結局のところ、「振動最小のスイートスポット」といえるのは、ラケットの中心線上のノード(1点)だけということになります。 バイブレーション・ノードの位置を知る方法は以下の通りです。 グリップトップ(もう1つのノード)を2本の指でつまんでラケットを支え、もう片方の手でボールを握って、フェースのあちこちをコツンコツンと叩きます。するとラケットをつまんだ指に振動を感じる点と感じない点があります。感じない点がバイブレーション・ノードです。 ちなみに、振動止めはストリングの振動は止めてくれますが、質量が小さすぎるため、ラケットの振動を止めることはできません。振動は不快ですが、手、手首、前腕、肘などに悪いという臨床上の証拠はないそうです。 パワー最大のスイートスポット(Power Point) 最後はパワー最大のスイートスポットです。 プレーヤーが小さい力で打っても速い球を飛ばしてくれるラケットを「パワーがある」といいます。ラケットはパワーがあればあるほど良いわけではなく、ありすぎると力をセーブして打たなくてはならない(ラケットのパワーがスイングの邪魔になる)ので、フォームが窮屈になり、テニスが楽しくなくなります。 プロはたいてい飛ばない(パワーのない)ラケットを持ち、体のパワーを全開にして強い球を打ちます。サンプラスが全盛期のころ、ウイルソンのカタログに掲載されていた各種モデルのなかで、サンプラスモデルのパワーがいちばん小さいと表示されていて、一瞬、不思議に思ったことがあります。われわれのような週末プレーヤーでも、飛ばないラケットに持ち替えたほうが、のびのび振れて力のある球が打てるようになることが少なくないようです。 飛んで来るボール速度に対する打球後のボール速度の比を、見かけの反発係数(Apparent Coefficient of Restitution : ACOR)といいます。フェース上でACORの値が最大となる点がパワーポイント(パワー最大のスイートスポット)ということです。 そんな点はどこにあるのでしょう? グリップを握ってフェースが地面に平行になるようにラケットを差し出し、ボールを上から落としてみてください。どこに落ちたときがいちばんよく弾むでしょう? 「スロート寄り」(フェース下部)ですね(写真の黄色い円あたり)。予想通りでしたか? ということは、パワーポイント(ACORが最大になる点)はスロート寄りにある……ということでしょうか? ちょっと待ってください、それはちょっと変ですね。そんなところで好んで打つ人はいません。フェースの中央で打つほうが球が飛ぶというのが素朴な実感です。これはどういうことでしょうか? この謎を解くカギは、ボールを打つとき、ラケットは静止しているのではなく弧を描いて運動しているという点にあります。弧を描いているので、運動の速度はスロート付近よりラケットトップのほうが大きく、ボールに加わる力もトップのほうが大きくなり、そのためパワーポイントはスロート寄りからフェース中央へと上方移動するわけです。(ボールを上から落とす実験では、ラケットは静止していますから、厳密な意味でのパワーポイントはフェースの中でさえなく、バランスポイント(ラケットの重心)上にあります。) もちろん、先すぎると、ラケットがボールに押されてしまいますし、ストリングがボールを撥ね返す効果も小さくなるので、どこまでもトップへと移動するわけではありません。ごく大まかに言うと、パワーポイントはストロークではフェース中央に、サーブ(フラットサーブ)ではフェース中央とトップの中間あたりに存在します。 サーブは先のほうで飛び、ボレーは手元で飛ぶ パワーポイントの位置を割り出す理屈も計算方法もあるみたいですが、チンプンカンプンなので省略します。日本語で公式風に言うと、ボールの入射速度に対するラケットヘッドの相対速度が大きいほど、パワーポイントはラケットトップ寄りに移動する、ということです。 私にとって、これは衝撃的な発見でした(ちょっと大げさ)。このラケット物理学上の真実は、テニスプレーヤーにとって実に大きな意味をもっています。 ボールの速度に対してラケットの速度がいちばん大きいのはサーブを打つときですから、パワーポイントはかなりトップ寄りに移動することになります。サーブでは、ストロークのときよりトップ寄りで打つほうが、威力のある球が打てるというわけです。そう心がければ、速いサーブが打てるだけでなく、打点も高くなってサーブが成功する確率も高まります。 逆に、ラケットが弧ではなく平行移動に近い運動をするボレーでは、ボールに対するラケットヘッドの相対速度は小さいですから、パワーポイントはスロート寄りのままです。なので、いくぶん手元でインパクトしたほうが、力のある球を返すことができます。 ストロークではフェース中央付近がいちばん飛ぶ(パワーがある)というのは常識的ですが、「サーブは先のほうで飛び、ボレーは手元で飛ぶ」というのは、私には新鮮な発見でした。私事で恐縮ですが、最近、このことを意識するようにしたおかげで、サーブとボレーが上達したような気がします。そう思っているのは私だけでしょうか? 私だけのようなので、今日はこのへんで終わりにします。理屈っぽい話(しかも長い!)が続いて恐縮です。断続的にまだまだ続きます。 *********************************** こちらもぜひお読みください →3つの重さ――ラケット研究1 →ラケットを振るときの3つの「重さ」――ラケット研究2
by tennis_passtime
| 2006-10-02 02:00
| ●雑学・技術・科学
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