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ボレーがうまくできず、悩んでいる男がいた。スクールに通い、テニス雑誌を読み、熱心に練習するのだが、効果がなかった。
ある人が、コーチを紹介してくれた。「テニス観が変わるほど上達したよ。ユニークな教えだけど、気に入るんじゃないかな」 期待を胸に、男は紹介してもらったコーチのもとを訪ねた。 コーチはにこやかに迎えてくれ、さっそくレッスンを始めてくれた。 ボレー練習を始めて間もなく、コーチが歩み寄ってきた。 「きみは2つの間違いをしているように見える。ほとんどの人が陥っているのと同じ間違いだ」 何度も注意されていたから、男にはわかっていた。踏み込んでボールを体の前で捉えていないことと、手首を使ってラケットを振ってしまっていることだ。ところが、コーチの指摘はそういうことではなかった。 「きみの間違いは、まず、自分のフォームを正しいフォームに近づけようとしていること、そして、一球ごとに、いまのは良かった、いまのは悪かったと判断していることだ」 え、それがなぜ悪いのだろう? 男は面食らった。 「正しいフォームに近づけようとしないのなら、練習の意味がないのでは?」 「正しいフォームに近づけようと意識すると、絶対にそこには到達しないんだ」 ますます面食らう話だ。 「人間のからだは精妙にできていてね、頭であれこれ指示せず、からだに勝手にやらせておけば、いつのまにかベストなフォームを発見してくれるものなんだ」 「そんな無茶な。センスがある人ならそうかもしれないけど、ぼくなんかだと、きっと変なクセがついてしまいます」 「外から教わった正しい打ち方に近づけようとすると、やれグリップがどう、テイクバックがどう、体重移動がどうと、チェックポイントだらけになるよね。瞬間的にぜんぶ正しくやるなんて不可能だと思わないかい?」 確かにそれは男の悩みを言い当ててはいたが、だからといってコーチの考えが正しいとは思えなかった。 「だから何度も練習して、無意識のうちにできるように体に覚え込ませるんじゃないですか」 「残念ながら、そうやって努力した果てにからだが覚え込むのが、きみのいう変なクセなんだ。手首を使うな、ラケットは振るな、左足を踏み込め、面は少し上を向けろ……外からあれこれ言われるから、タイミングの遅れたモグラ叩きゲームみたいにギクシャクする。それを何度も何度も練習で繰り返すうちに、芸術的とさえいえるような奇妙なフォームが固定されるというわけだ」 「スクールで教わることは無駄だと?」 「無駄どころか、百害あって一利なしだ。外からのアドバイスで正しい打ち方をマスターさせようという教え方なら、だけどね」 ずいぶん大胆なことを言う人だ。世のレッスンプロから抗議はないのだろうか。 「それにしても、やはり理に適ったフォームというのがあるんじゃないですか? 勝手にやっていたのでは、そこに行き着けないでしょう?」 「理に適ったフォームというものはある。ただ、それはその人の外にではなく、内にある。だから、内側からしかそこには行き着けないんだ。ああしろこうしろと外から命令せず、からだの中にもともと潜んでいる最善のフォームが生まれる時、ベストショットを生む運動が姿を現す時を、楽しみに待っていればいいんだ」 「それならたずねますが、それが理に適った打ち方です、いまあなたはそれをマスターしました、と誰が合格点を出してくれるのですか」 「それはきみ自身さ。からだの知性が、これでひとまず完成、ということを教えてくれる。からだの動きのどこか一箇所が補正されれば、他の不具合も待ち構えていたかのように自然に正しい運動を始める」 それを聞いて思い当たることがあった。テニスを習い始めたころ、1つのことができても、次の指導を受けるとそれができなくなり、ようやく2つ同時にできるようになっても、3つ目の指導を受けるとまたできなくなるということを何度も経験した。そのころと今ではレベルは違うが、いまでも、部分ごとの改善がショット全体に自然に溶け込まないもどかしさは感じることがある。 「マスターした時は、これだ!とわかる。そのときのフォームは、雑誌に載っている連続写真とは違うかもしれないが、きみ固有のからだのバランスやリズムを有効に取り入れた最高の自然体、最も理に適ったフォームというわけなんだ」 正しく打とうと努力していたこれまでの考えと180度違うので、まだまだ半信半疑だったが、コーチの話には、うなずける部分が少なくなかった。 男は、コーチが指摘した2つ目の「間違い」についてたずねることにした。 「さっきコーチは、一球ごとに良かった、悪かったと判断するのは間違いだと言いましたよね。でも、何も考えずに打っていたのでは欠点の直しようがないのではないですか?」 ▼次回インナーテニス2に続く ……………………………………………………………………………………… ![]()
by tennis_passtime
| 2006-06-03 13:14
| ●雑学・技術・科学
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