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稲垣正浩『スポーツを読む』(三省堂選書,1993)を読みました。古今東西の文学作品に現れるスポーツ(原初的形態を含む)を論じるスポーツ文化史の読み物です。取り上げられている作品と、スポーツは以下のとおり。
『イーリアス』(古代ギリシャの葬祭競技) 『訓読 日本書紀』(相撲) 『クォバディス』(古代ローマのショウ・スポーツ) 『ローランの歌』(バスク民族の土着スポーツ) 『ガリヴァー旅行記』(近代スポーツ批判) 『トム・ブラウンの学校生活』(ラグビー・フットボール) 『アルプス登攀記』(マッターホルン初登攀) 『女性の解放』(女性のスポーツ参加) 『ベルツの日記』(明治初期に本のスポーツ) 『松蘿玉液(しょうらぎょくえき)』(日本野球の黎明期) 『自転車日記』(漱石、自転車と格闘する) 『破壊』(テニス) 『パパラギ』(文名人の心身の歪み) 『チップス先生さようなら』(クリケット) 『オリンポスの果実』(オリンピックと日本的美意識) 『かもめのジョナサン』(限界への挑戦) いろいろ勉強になりましたが、いちばんびっくりしたのは、エドワード・ウィンパー著『アルプス登攀記』(邦訳複数。本書は岩波文庫版に依拠)を紹介しているくだりです。 1865年、イギリス隊のウィンパーは6年越し8回目の挑戦でマッターホルン登頂に成功しますが、2日先に別ルートで出発したイタリア隊が先着していないか気が気ではない。喜びと不安を抱えて頂上に立つと、そこにはだれの足跡もなかった。どうやら初登頂の栄誉は自分たちのものらしい。それを確かめるべく岩壁から身を乗り出すと、遥か下方にイタリア隊が見えた。頂上から勝利の雄叫びを上げるがイタリア隊まで届かない。 そこでウィンパーがやったこと、それが「エッ!?」と驚く内容なのです。テレビ番組なら絶対にCMが割って入るところです。紹介している稲垣氏も、「いささか信じられないような内容を含んでいます」と但し書きをつけずにはいられなかったようです。 「私は岩を持ち上げると、それを放り投げた。(中略)私たちは登山杖を突っ込んで岩をゆさぶり落とした。岩なだれが、岸壁にこだましながら落ちていった。今度は間違いなく、彼らにも分ったようであった。イタリア人たちが退却していくのが見えた。」 このくだりを読んだのが白馬岳に登ってきた直後だっただけに、これは驚きでした。白馬岳の大雪渓で私たちは、眼下を岩が滑落して行く場面に遭遇し、一瞬周囲に緊張が走りました。落石注意を知らせる「ラーク」の大声が発せられましたが、1865年の登山では、人間がわざと岩を落としていたとは……。人類初登頂という重大な意味を帯びていたこと、おまけに因縁ぶくみの登攀レースだったことなどもあるのでしょう、まさかいつでも上の人間が下の人間を妨害していたとは思いませんが、それにしても驚きです。 稲垣氏は、「この時代の登山が、むき出しの人間性そのものを許容しうる、そういう性質のものであった、ということに注目したい」、「優勝劣敗主義を地のまま実施することに何の疑問もいだかないどころか、正々堂々たる行為として胸を張っていること、現代のわれわれからすれば『勝者の驕り』ともとれる行為が『当然のこと』として息づいていることに注目したいのです」と述べています。 とまあ、こんな発見が、いろいろな作品から、いろいろなスポーツについて紹介されている本なのでありました。
by tennis_passtime
| 2013-08-04 19:02
| ●読書ノート
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