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金曜は冷たい雨が降り続き、試合は屋根を閉めて行なわれましたが、土曜は一転してまぶしいほどの好天。光線の関係で顔の左半分だけ、帽子の関係で下半分だけという、奇妙な日焼けをしてしまいました。 テニスの次元が違う 最大のお目当てはもちろんフェデラー。入場してきた瞬間にスタンドがざわめき、歓声に包まれました。圧倒的な存在感、圧倒的なカリスマ。 期待に違わずテニスも別格でした。普通にラリーをしていても球の伸びが違います。いかにも重そうな球が、大観衆の熱い視線で密度が濃くなった空気を切り裂き、おもしろいように相手を翻弄しました。 バックのスライスでスローな展開に持ち込んだかと思うと、突然、相手の虚を突いて強打を炸裂させます。ルックスはローマ皇帝のわがまま息子という感じですが、プレーは音もなく敵に近づいて喉を掻き切る忍者のようです。 コロシアムと観衆は実写で、フェデラーとフェデラーが打った球はSFXで合成された、近未来の3次元映像を観ているような不思議な感覚に襲われました。 というのは土曜の対ベッカー戦の話。では、金曜はどうだったのか。金曜の忍者はわれらが鈴木貴男でした。 鈴木貴男のアイデアと勇気 フェデラーvs鈴木の一戦は本当に盛り上がりました。鈴木はサーブが非常によかった。それと、あの手この手で常に先手を取り、隙あらばネットに着く積極的な展開でプレッシャーをかけ、フェデラーにバックハンドスライスを打たせませんでした(スライス封じが効を奏したというのはK田氏の分析ですが、同感です)。フェデラーとの戦い方の有力なパターンを示したといえるでしょう。 とにかく鈴木はアイデアと勇気にあふれていました。観衆が触発され、「貴男コール」で何度もスタンドが沸きました。わたしも観ていて体が震えました。 スコアは鈴木から見て、6-4、5-7、6(3)-7のセットカウント1-2。 結果的には「善戦」で終わりましたが、2セット目の終盤、フェデラーのラッキーショット気味のロブがアウトしていたらマジで勝っていたかもしれません。 来年も来てね フェデラーは決勝戦でヘンマンを蹴散らして優勝。勝利者インタビューで「ディフェンディング・チャンピオンとして来年も出場する」と答えました。みなさん聞きましたよね。フェデラー様、絶対に約束は守ってくださいよ。絶対に観に行きますから。 #
by tennis_passtime
| 2006-10-11 03:10
| ●プロテニス
今回のテーマは「スイートスポット」(Sweetspots)です。ラケットには3つの「重さ」があると「ラケット研究1」で説明しましたが、「スイートスポット」も3つあります。「自然界は"3"を好む」と誰か有名な人が言っていませんでしたか? 言っていなければ私が言ってもいいです。少なくともラケットは「3」を好むようです。
スイートスポットとはどういう点のことでしょう? フレームショットの痺れるような衝撃が「甘美だ」という人はいないでしょうが、あらためて問われると、答えに詰まるのではないでしょうか。 スイートスポットとは次のような点のことです。 (1)腕が受ける衝撃が最小 (2)ラケットの振動が最小 (3)ボールを飛ばす力が最大 そして、これら3つの点はラケットフェース(ストリング面)上に別々に位置しています。だから「スイートスポットは3つある」というわけです。 私は、「飛ばす力が大きい」というのがスイートスポットの定義で、そこでは衝撃も振動も小さいのだと思っていました。つまり、1点が3つの性質を持っているのだと誤解していたわけです。 「スイートスポットが20%拡大」などと書いている広告を見かけますが、3つのスイートスポットはどれも面積のない「点」ですから、正確性を欠く宣伝文句です。そもそも、どの意味でスイートなのか明らかでありません。3つ全部を囲んで、ついでにその周辺まで範囲を広げて、このへんまでスイートなことにしておこう、と言っているとしか思えません(「スイートエリア」と書いているメーカーは、まだしも良心的です)。 それでは、3つのスイートスポットについて説明していきましょう。 衝撃最小のスイートスポット(Center of Percussion) まずは衝撃最小のスイートスポットから。 「衝撃がない」とはどういうことでしょう? インパクトの瞬間、ラケットは全体として後ろに押されます。と同時に、バランスポイントを回転軸とする慣性モーメントが働いて、ヘッドは後退し、グリップは前に突き出ます(ラケット研究2「リコイルウエイト」参照)。このとき、ラケット全体が押されて後退する大きさと、グリップが前に突き出る大きさが相殺しあってゼロになれば、手に感じる衝撃はなくなります。 そのような打点をCOP(Center of Percussion)といいます。COPでボールをヒットすれば衝撃がなく心地良いので、「衝撃最小のスイートスポット」というわけです。 勘の良い人はもうおわかりでしょうが、COPの位置は、グリップのどこを握るかで変化します(言い換えれば、握った位置それぞれに1対1対応するCOPが存在します)。ラケットを短く持てばCOPはヘッド寄りに移動します。 COPの位置は、ラケットのスイングスピードやショットの種類(トップスピン、スライス、サーブ、ボレーなど)によって変わることはありません。ラケットそのものが持つ属性と、握る位置によってのみ変化します。 COPの位置を知る方法は以下の通りです。 ふだんのラケットの握り方で人差し指が来る位置を支点としてラケットを振り子のように揺らし、1往復に要する時間を測ります。それをt秒とすると、COP(振り子の支点からの距離)=248×t×t(単位はミリ)ということになります。 振動最小のスイートスポット(Vibration Node) 次は振動最小のスイートスポットです。 ボールを打つとき、どんなに硬くてもラケットはしなり、振動します。振幅はラケットトップ(一番先端)とグリップエンド、そしてラケット中央部で最大になります。このとき、ラケットには振幅ゼロのポイントが2カ所ありますが、そのような点をバイブレーション・ノード(Vibration Node)といいます。振動がなく心地良いので、これもスイートスポットというわけです。 ノードは2カ所あるといっても、1つはグリップトップ(グリップの一番上の部分)付近なので、実際にボールを打つスイートスポットといえるノードは1箇所ということになります。 そのノードですが、正確には「点」ではなく、フレームの2時と10時を結ぶ「曲線」の上に存在します。オフセンターヒットであっても、その曲線上であればラケットは振動しないのです。ただし、そんなところで打ったのでは、前回書いたように、ツイストウエイトが働いてラケットが手の中で回転するので、決してスイートではありません。結局のところ、「振動最小のスイートスポット」といえるのは、ラケットの中心線上のノード(1点)だけということになります。 バイブレーション・ノードの位置を知る方法は以下の通りです。 グリップトップ(もう1つのノード)を2本の指でつまんでラケットを支え、もう片方の手でボールを握って、フェースのあちこちをコツンコツンと叩きます。するとラケットをつまんだ指に振動を感じる点と感じない点があります。感じない点がバイブレーション・ノードです。 ちなみに、振動止めはストリングの振動は止めてくれますが、質量が小さすぎるため、ラケットの振動を止めることはできません。振動は不快ですが、手、手首、前腕、肘などに悪いという臨床上の証拠はないそうです。 パワー最大のスイートスポット(Power Point) 最後はパワー最大のスイートスポットです。 プレーヤーが小さい力で打っても速い球を飛ばしてくれるラケットを「パワーがある」といいます。ラケットはパワーがあればあるほど良いわけではなく、ありすぎると力をセーブして打たなくてはならない(ラケットのパワーがスイングの邪魔になる)ので、フォームが窮屈になり、テニスが楽しくなくなります。 プロはたいてい飛ばない(パワーのない)ラケットを持ち、体のパワーを全開にして強い球を打ちます。サンプラスが全盛期のころ、ウイルソンのカタログに掲載されていた各種モデルのなかで、サンプラスモデルのパワーがいちばん小さいと表示されていて、一瞬、不思議に思ったことがあります。われわれのような週末プレーヤーでも、飛ばないラケットに持ち替えたほうが、のびのび振れて力のある球が打てるようになることが少なくないようです。 飛んで来るボール速度に対する打球後のボール速度の比を、見かけの反発係数(Apparent Coefficient of Restitution : ACOR)といいます。フェース上でACORの値が最大となる点がパワーポイント(パワー最大のスイートスポット)ということです。 そんな点はどこにあるのでしょう? グリップを握ってフェースが地面に平行になるようにラケットを差し出し、ボールを上から落としてみてください。どこに落ちたときがいちばんよく弾むでしょう? 「スロート寄り」(フェース下部)ですね(写真の黄色い円あたり)。予想通りでしたか? ということは、パワーポイント(ACORが最大になる点)はスロート寄りにある……ということでしょうか? ちょっと待ってください、それはちょっと変ですね。そんなところで好んで打つ人はいません。フェースの中央で打つほうが球が飛ぶというのが素朴な実感です。これはどういうことでしょうか? この謎を解くカギは、ボールを打つとき、ラケットは静止しているのではなく弧を描いて運動しているという点にあります。弧を描いているので、運動の速度はスロート付近よりラケットトップのほうが大きく、ボールに加わる力もトップのほうが大きくなり、そのためパワーポイントはスロート寄りからフェース中央へと上方移動するわけです。(ボールを上から落とす実験では、ラケットは静止していますから、厳密な意味でのパワーポイントはフェースの中でさえなく、バランスポイント(ラケットの重心)上にあります。) もちろん、先すぎると、ラケットがボールに押されてしまいますし、ストリングがボールを撥ね返す効果も小さくなるので、どこまでもトップへと移動するわけではありません。ごく大まかに言うと、パワーポイントはストロークではフェース中央に、サーブ(フラットサーブ)ではフェース中央とトップの中間あたりに存在します。 サーブは先のほうで飛び、ボレーは手元で飛ぶ パワーポイントの位置を割り出す理屈も計算方法もあるみたいですが、チンプンカンプンなので省略します。日本語で公式風に言うと、ボールの入射速度に対するラケットヘッドの相対速度が大きいほど、パワーポイントはラケットトップ寄りに移動する、ということです。 私にとって、これは衝撃的な発見でした(ちょっと大げさ)。このラケット物理学上の真実は、テニスプレーヤーにとって実に大きな意味をもっています。 ボールの速度に対してラケットの速度がいちばん大きいのはサーブを打つときですから、パワーポイントはかなりトップ寄りに移動することになります。サーブでは、ストロークのときよりトップ寄りで打つほうが、威力のある球が打てるというわけです。そう心がければ、速いサーブが打てるだけでなく、打点も高くなってサーブが成功する確率も高まります。 逆に、ラケットが弧ではなく平行移動に近い運動をするボレーでは、ボールに対するラケットヘッドの相対速度は小さいですから、パワーポイントはスロート寄りのままです。なので、いくぶん手元でインパクトしたほうが、力のある球を返すことができます。 ストロークではフェース中央付近がいちばん飛ぶ(パワーがある)というのは常識的ですが、「サーブは先のほうで飛び、ボレーは手元で飛ぶ」というのは、私には新鮮な発見でした。私事で恐縮ですが、最近、このことを意識するようにしたおかげで、サーブとボレーが上達したような気がします。そう思っているのは私だけでしょうか? 私だけのようなので、今日はこのへんで終わりにします。理屈っぽい話(しかも長い!)が続いて恐縮です。断続的にまだまだ続きます。 *********************************** こちらもぜひお読みください →3つの重さ――ラケット研究1 →ラケットを振るときの3つの「重さ」――ラケット研究2 #
by tennis_passtime
| 2006-10-02 02:00
| ●雑学・技術・科学
わが家の愛犬はビーグルのアルフ。いまから10年近く前、1歳半ぐらいのとき、庭につないでいた紐を噛み切って迷い出てしまったことがあります。どうせ美人のメス犬でも追いかけていたのでしょう。(飼い主に似ているというべきか。) アルフがいなくなったことに気づいた私と妻は、近所を懸命に探し、手当たりしだいに犬の散歩仲間にもたずねましたが、見つけることができませんでした。保健所に連絡して、あとは保護の報せが入るのを願うしかないという状況になってしまいました。 ……………………………………………………………………………………………………………………… 同じとき、別の場所で…… Pさんが自宅から駅までクルマを走らせていると、国道1号線沿いの歩道を一匹のビーグル犬がふらふらと歩いているのが目にとまりました。 一見して迷子犬だとわかりました。交通量が多くて危険だし、早く保護しないと飼い主の元に戻れなくなってしまうかもしれない。そう考えたPさんは、駅にクルマを走らせながら、現場近くのマンションに住む友だちのQさんに電話をかけ、あなたの家の窓から見える交差点に迷い犬がいるから保護してちょうだい、帰りに私が引き取るから、と頼んだのでした。 わんぱく盛りのビーグル犬をなかなか捕まえられなかったQさんは、コンビニでハムなどを買い、エサでおびきよせて首輪をつかんだのでした。(恋をしたのなら、エサに釣られたりせず最後まで貫けよ。そんなところも飼い主に似て中途半端です。) Qさん宅に回ってビーグルを引き取ったPさんは、アルフを自宅に連れ帰り、保健所に通知してくれたのでした。 ……………………………………………………………………………………………………………………… 失踪翌日、保健所から我が家に電話がありました。どうやらお宅の犬らしいビーグルが、Pさんという方の家に保護されています、という報せでした。2日経って見つからなければ、最後まで戻って来ない確率が高くなると聞いていたので、家族一同、ほっと胸をなでおろしたのでした。 電話でPさんと話しました。姿かたちといい、発見された場所や時間といい、まず間違いなくアルフのようです。それでも、もし違っていたらどうしようという一抹の不安を抱きながら、Pさんのお宅に向かいました。 電話で教えられたPさんのお宅は、歩きでも我が家から10分ほどの近所でした。家を探し当てた私の目に、玄関先につながれて、チョコンと座っているアルフの姿が飛び込んできました。やれやれ、無事でよかった。 ……………………………………………………………………………………………………………………… こんなにまでしてアルフを助けてくれたPさんは筋金入りの愛犬家でした。Pさんは、捨て犬や捨て猫を救うための活動をしている団体のサポーターだったのです。 そんなPさんと玄関先で愛犬談義をしているとき、片隅にカゴ一杯のテニスボールがあることに気づきました。それは毎日使い込まれているような気配を漂わせたボールの山でした。 「テニスなさるんですか?」 「ええ、今日は有明の大会で審判をやってきたんです」 筋金入りの愛犬家は、なんと筋金入りのテニスウーマンでもあったのです。聞くと、アルフ発見の朝、Pさんが駅に向かっていたのは、朝早くテニスの大会に向かう息子さんをクルマで送るためだったからで、そうでなければ、あんな時間にあのあたりを走ったりはしなかったというのです。 これぞ天の配剤。まさにアルフはテニスに救われたようなものです。(そこがいちばん飼い主に似ているところだということにしておきましょう。) #
by tennis_passtime
| 2006-09-24 00:24
| ●自薦BEST
前回(ラケット研究1)はラケットの3つの重さ――ウエイト、ピックアップウエイト、スイングウエイト――について説明し、実際にラケットを振るときの重さであるスイングウエイトがいちばん重要な意味を持つことを強調しました。
ラケットを振るときの重さとは慣性モーメント、すなわち、回転運動するラケットに働く抵抗のことです。ラケットに働く慣性モーメントには、回転軸の異なる3種類のものがあります。 グリップ部(正確にはグリップを握った中指あたりからコートに垂直に下りる線)を回転軸とする慣性モーメントがスイングウエイト(swingweight)であり、ラケット頭頂部とグリップエンドを結ぶラケットの長軸まわりの慣性モーメントがツイストウエイト(twistweight=ねじれウエイト)、バランスポイントを回転軸とする運動の慣性モーメントがリコイルウエイト(recoilweight)です。 下の図はスイングウエイトを示していますが、スイングウエイトは前回すでに説明したので、今回は他の2つの慣性モーメントについて説明しましょう。 ツイストウエイト オフセンターでボールを打った時、衝撃によって手の中でグリップが回ろうとする(だからインパクトの瞬間にグリップを強く握る必要がある)ことは理解できますね。これがツイストウエイトです(あえて訳せば“ねじれウエイト”でしょうか)。真芯で打っても何がしかのツイストウエイトがかかります。 フェースの3時と9時の位置に鉛テープの重りを貼るというカスタマイズを行なえば、ツイストウエイトは大きくなり、オフセンターヒット時のねじれが少なくなり、面安定性が増します。ちなみに、3時9時の2箇所の合計で10g貼るのと、12時の1箇所に10g貼るのとでは、ラケットの重さの変化はどちらも10gですが、ツイストウエイトの増加は前者がより大きく、ピックアップウエイトとスイングウエイトの増加は後者がより大きくなります。 ウイルソンのラケットは3時と9時の位置でフレームが最初から太くなっています。同社ではこれを「P.W.S=周辺加重機構」と呼んでいますが、ツイストウエイトを大きくして面安定性を高めているわけです。 リコイルウエイト リコイルウエイトは、バランスポイントを回転軸とする運動の慣性モーメントです。リコイル(recoil)を辞書で引くと、反動、跳ね返り、後ずさり、たじろぐ、ひるむ、などと書かれています。Recoilless gun(無反動砲)というのもあるようですが、弾を撃ってもしゃくりあげるような動きが生じない火器のことなのでしょう。 一瞬のインパクトのうちに、さまざまな力が作用しあっているんですね。私は高校の物理の授業ではひたすら先生と目を合わさないようにしていましたが、「テニス物理学」という授業だったら、けっこう勉強していたかもしれません。 次回以降、スイートスポットの物理学を経由して、サーブとボレーの打点の使い分けといった実践的トピックに移って行く予定です。 ************************************* こちらもぜひお読みください →3つの重さ――ラケット研究1 →3つのスイートスポット――ラケット研究3 #
by tennis_passtime
| 2006-09-23 03:36
| ●雑学・技術・科学
お久しぶりです。「横浜テニス研究所」開設と同時に長期休暇をいただき、久しぶりの更新となりました。研究所としての初記事は「ラケットの研究」です(不定期連載)。
コートサイドでの話題の定番はラケットの品定め。自分のラケットと仲間のラケットを持ち替えながら、軽い、重い、飛ぶ、飛ばない、硬い、柔らかい……と飽きもせず同じ話を繰り返すのが週末プレーヤーの楽しみのひとつです。 そんなわけでラケットについて調べてみました。調べていくうちに、いろいろなことが分かりました。自分がいくつか間違った思い込みをしていたことも分かりました。 最悪だったのは、「テニスエルボーには軽いラケットが良い」と誤解していたことです。私は去年の夏からテニスエルボーに悩んでおり、肘への負担を軽くしようとして軽いラケットに変えていた時期がありました。このたび、軽いラケットは肘によくない(!)ことを知りました。知らなかったのは私だけ? 盲腸を熱い風呂に入って治そうとして死にかけた人の話を思い出しました。 重さは、肘への影響だけでなく、ラケットの性能のほとんどを決めるといっても過言ではないぐらい重要です。ということで、まずは「重さ」の話から始めましょう。 ラケットには3つの重さがある 「重さ」とカギ括弧でくくったのは、ラケットには3つの重さがあるからです。 1.ウエイト(Weight)“重さ” 2.ピックアップウエイト(Pickup Weight)“持ち重み” 3.スイングウエイト(Swingweight)“振り重み” ウエイト 「ウエイト」というのは秤で量った重さであり、ラケットバッグに入れて持ち運ぶ時に感じる重さです。私が最近使い始めたバボラのピュア・ドライブは300±7gと表示されています。同じ機種でも上下で14gも違うんですね。 ピックアップウエイト 「ピックアップウエイト」というのは、ラケットのグリップを握って地面と水平に静止状態で保持したときに感じる重さのことです。ヘッドが重力で下に落ちようとするのを止めるために加える力の大きさのことで、次の式で求めることができます。 ピックアップウエイト(g・cm)=(ウエイト×バランスポイント)÷100 バランスポイントというのはラケットの重心のことで、グリップエンドからの距離で示します。ピュア・ドライブは320±7mmと表示されています。 重さ300g、バランスポイント320mmとすると、ピュア・ドライブのピックアップウエイトは96g・cm(=300×32.0÷100)となります(100で割るのは数字を扱いやすくするため)。 これは32cmの棒の先に300gの重りがぶらさがっているというイメージです(棒と紐の重さは無視)。このように、ピックアップウエイトは重さとバランスポイントの兼ね合いで決まるので、秤で量れば軽いラケットのほうが重いラケットよりピックアップウエイトが重いことがあります。 スイングウエイト しかし、ラケットにとって本当に大事な「重さ」は3番目のスイングウエイト、すなわち実際にボールを打つために振ったときの重さです。 スイングウエイトも、ウエイトとバランスバランスポイントが算出の基礎になりますが、それだけで単純に計算することはできません。ピックアップウエイトはバランスポイントの1点に全重量が存在する(300gの重りがぶらさがった32cmの棒)と考えて算出できましたが、スイングウエイトはラケットを構成する全原子のスイングウエイトの総和であり、原子の分布(重さの分布)のありようによって異なるからです。 つまり、重さ300g、バランスポイント32cmのラケットが2本あれば、ピックアップウエイトは同じです。しかし、1本はグリップエンド付近とヘッド先端が重く、もう1本はバランスポイント付近が重いということであれば、スイングウエイトは異なります(やや極端な例ですが)。 スイングウエイトは、ラケット専門店に置いてあるスイングウエイト測定器で測ってもらうことができます(自分で測る方法は次回説明します)。 私は以前使っていたラケットを買うとき、渋谷のアートスポーツでスイングウエイトを測ってもらったことがあります。1本買って気に入ったので2本目を買いに行き、「1本目より気持ち重めの物が欲しい」と言ったら、「スイングウエイトで見なければ意味がないので、1本目を持ってきてください」ということになり、在庫を全部測定器にセットして測ってもらいました(「買うのやめます」と言えなくなりました)。 では、いま使っているピュアドライブのスイングウエイトは……あれ? 表示されていません。3つの重さの中でもいちばん大事な重さが明らかにされていないとは面妖な。ネットでカタログを見ても出ていません。ウイルソンもプリンスもヘッドも調べましたが、やはり出ていませんでした(ただしテニス中間が使っているプリンスのO3を見せてもらったら、ラケット本体にはスイングウエイトが「290」と表示されていました。単位はkg・cm2です)。 重要なスペックが表示されていないのはなぜなんでしょう。ほとんどの人には意味もわからない数値を表示しても、店頭で混乱を招くだけと考えてのことなのでしょうか。あるいは、店頭で測ることにして、「買うのやめます」と言わせなくする作戦? 知っている人がいたら教えてください。 ラケットの重さがプレーに与える影響 スイングウエイトは、軽ければ振りやすいですが、相手の球が速ければ打ち負けます(ショックが大きくて肘にも悪いです)。かといって重過ぎれば振り遅れてしまいます。重いラケットで力強く撥ね返すか、軽いラケットを速く振って対処するかは、好みの問題であり、プレースタイルの問題です。サーブ、リターン、ボレーといったショットによっても重さの持つ意味は違います。そのあたりについては興味深い発見があったので、次回以降、少しずつ紹介していきたいと思います。 ************************************ こちらもぜひお読みください →ラケットを振るときの3つの「重さ」――ラケット研究2 →3つのスイートスポット――ラケット研究3 #
by tennis_passtime
| 2006-09-21 02:16
| ●雑学・技術・科学
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