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▼これまでのあらすじ
健太が入学した中学校に軟式テニス部ができた。自分たちの手でコートをつくるところからのスタートだったが、練習に励んだ甲斐あって、試合形式の練習もできるようになった。夏休み中の練習で、秋の新人戦に参加すると先生から告げられ、練習にいっそう熱が入った。 夏休みが終わった。炎天下で連日ボールを打ち続けたS中学のテニス部員7人は、真っ黒に日焼けして新学期を迎えた。好きなテニスに没頭していただけとはいえ、夏休みの練習を乗り切ったことで、チームとしての結束も強まり、それぞれが自分に自信を持ち始めていた。 テニス部は2学期も練習に明け暮れた。秋の空気が心地よく汗を冷やす10月、ついに新人戦の日がやってきた。 早朝、7人は自転車で学校に集合し、50ccのスーパーカブにまたがったF先生に率いられて大会会場へ向かった。川沿いの土手道でペダルを漕ぎながら、自分たちのうちのどのペアが優勝するかという話題で盛り上がった。ひょうきん者のターさんは、いつものように仲間を笑わせていたが、緊張からなのか、早くも顔を紅潮させていた。彼ほどわかりやすく表には出していないものの、だれもが期待と不安を感じ始めていた。 1時間ほどのサイクリングで大会会場に到着した。 7人はそこで見た光景に度肝を抜かれてしまった。会場となったK中学には、なんとテニスコートが6面もあったのである。雨が降ると土が流れて溝ができる自分たちのコートと違い、整然と並ぶ6面はまったく傾斜していなかった。しかも表面は真っ平らですべすべ、草も小石もなく、白いビニールを釘で打ち付けたラインは定規を当てたように真っすぐだった。これ以上何をする必要があるのかと思うのたが、K中の部員たちは、きびきびと無言でコート整備を行なっていた。 会場のそこかしこで各校が円陣を組み、選手たちが直立して顧問の先生の話を聞いていた。下級生は上級生を「さんづけ」で呼び、敬語で話していた。そんな運動部の決まりごとを全く知らなかったS中テニス部の7人は、不思議な世界に放り込まれたような気がした。 それだけではない。多くの学校が校名の入ったユニフォームを着ていた。そうでない学校も校名がプリントされたゼッケンを着けていた。S中のゼッケンは、白い布に自分で校名を書いた手づくりだった。ラケットも、健太たちは校名が焼印された学校の備品を使っていたが、ほかの学校の選手はみんな自分のラケットを持っていた。 開会式が終わり、試合が始まった。足が地につかず、肩身の狭い思いさえ味わいながらの試合では、日頃の実力など出しようもなかった。いや、出せたところで結果は同じだっただろう。3チームともあっけなく初戦敗退。おたがいを応援する暇もなかった。 頭の中が真っ白になったまま決勝戦を観戦し、表彰式を見て、長い1日が終わった。決勝戦は市の中心部を校区に持つ2校の2年生ペア同士。ワンポイントを争う緊迫した試合で、ほれぼれするようなプレーの連続だった。よその学校の2年生にも負けない――健太は半分ぐらいそう思いかけていた自分のバカさ加減が恥ずかしかった。プレーしたのはわずか1試合だけだったのに、なぜかぐったりと疲れてしまった。 7人はふたたび自転車にまたがり、朝と同じ道を通って自分たちの学校へと向かった。朝と違い、だれもが無言だった。健太は原付バイクで前を行く先生の背中を見ながら、「先生、がっかりしてるかなあ」と思った。 第1話 放課後のテニス
by tennis_passtime
| 2007-05-06 18:29
| ●連載ミニ小説
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