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これはズルい。ウケないわけがない。設定とプロットで決まりです。今をときめく直木賞作家、三浦しをんの受賞第一作『風が強く吹いている』(新潮社、本体1800円)のことです。 崩れかけたぼろアパートに大学生が10人住んでいる。ある日、1人が宣言する。箱根駅伝に出よう。10人で長距離陸上部を結成し、全員そろって5000メートルを17分以内で走って予選会出場の資格を得、予選会で8位に入って正月の国民的行事たる箱根駅伝に出場し、地元商店街のサポートと全国的注視のもと、デッドヒートの末に10位になって翌年のシード権を獲得してしまう、というお話。 10人の中に長距離ランナーは2人だけ(ランニングに屈折した思いがあり、強豪校からの誘いを断って長距離陸上部さえない大学に入学している)。素人集団が、落ちこんだり喜んだり、ケンカしたり助けあったりしながら、「走ること」の魅力にひかれて、劣悪な練習環境を克服して最後まで走りきってしまう。 俺たちが行きたいのは、箱根じゃない。走ることによってだけたどりつける、どこかもっと遠く、深く、美しい場所。いますぐには無理でも、俺はいつか、その場所を見たい。それまでは走りつづける。この苦しい一キロを走りきって、少しでも近づいてみせる。(p.363)10人は走りきることによって、ある者は自分を発見し、ある者は家族と和解し、ある者は卒業後の進路を見出し、ある者は恋に気づき、ある者は理想のランニング観に到達するのでありました。 多少の紆余曲折はあるものの、基本的にはあれよあれよの荒唐無稽譚。著者の熱い思いがほとばしりすぎの感も否めない。でも私は許します。痛快な読後感とともに一気読みしてしまいました。とくに、予選会の10人の熱い走りには胸が熱くなりました。 マラソンを余技とする横浜テニス研究所の所長として、印象に残った箇所をいくつか紹介しておきましょう。 あらゆるスポーツで天分が必要とされるが、およそ長距離ほど、天分と努力の天秤が、努力のほうに傾いている種目もないだろう。(p.92) (← 言えてる気がします) 「速さだけでは、長い距離を戦い抜くことはできない。天候、コース、レース展開、体調、自分の精神状態。そういういろんな要素を、冷静に分析し、苦しい局面でも粘って体をまえに運びつづける。長距離選手に必要なのは、本当の意味での強さだ。俺たちは、『強い』と称されることを誉れにして、毎日走るんだ」(p.159) (← 人生そのものじゃありませんか。求道心を刺激されました) 「長距離の選手には、いくらでも飲めるって体質の人が多いんだ。内臓の代謝がいいのかな。きみたちも、ザルを通り越してワクだろ。ずっと飲みっぷりを観察していて、これはいける、と思ったわけだ」(p.220) (← せっかく求道心を刺激されたのに、呑兵衛に逆戻り) ムサはうれしかった。この国で生まれたのではないし、自分を歓迎していない人々もいる。それはわかっている。でも、いまこの瞬間、私はなんと自由で平等な場所にいるんだろう。併走する選手も、姿を見ることもできないほど前方にいるトップを走る選手も、たしかに同じ時間と空間を分けあっている。(p.328) (← 鈍足の私もこれは感じます)明日走ろ~っと。
by tennis_passtime
| 2006-10-24 23:50
| ●読書ノート
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